続き行きます。
それではどうぞ!
「才能」では成功できない
-「成功する者」と「失敗する者」を分けるもの
心理学者になる前、
私は教師だった。
当時はまだ「ビースト」のことなど
知らなかったが、
私は教育の現場で
あることに気づき始めた。
それは、才能だけでは
結果は出せないということだ。
教師になったのは
27歳の時だった。
その前月、私は
マッキンゼーを辞めた。
世界有数のコンサルティングファームで
マンハッタンのミッドタウンに構える
ニューヨークオフィスは、
青いガラス張りの超高層ビルの
数フロアを占めていた。
同僚たちは私の決断を知って
呆気にとられた。
誰もがうらやむような超一流企業を
なぜ辞めるのか。
世界で最も卓越した影響力を持つ
企業として必ず名前が上がるほどなのに。
知り合いなどは、
私が週80時間労働にうんざりして
もっとゆったりした生活を
始めるつもりだと思ったらしい。
だが、それは誤解もいいところで
教職の経験者ならだれでも知っている通り
教師ほどきつい職業はない。
だったらなおさら、
なぜ辞めるのか?
ある意味、私にとっては
むしろコンサルタントになったことの方が
回り道だったのだ。
私は学生時代、
地元の公立学校の生徒たちに
学習指導を行っていた。
卒業後は授業料免除の
補修プログラムを立ち上げ
2年間運営を続けた。
その後オックスフォード大学に留学して
読字障害の神経構造を研究し
神経科学の学位を取得した。
そのあと少し回り道をしたものの
ついに教職に就いた私は
ようやく自分の進むべき
道に舞い戻った気がした。
「呑み込みが悪い」のに
よい成績を取る子供たち
受け持ちの生徒は12歳と13歳。
ほとんどの生徒はマンハッタンの
アベニューAとアベニューDのあいだの
公営住宅に住んでいた。
いまでこそ、
この地区にはおしゃれなカフェが
あちこちにあるが
当時の街並みはまったく
ちがっていた。
私が着任した秋には、
勤務先の学校が
「都会の貧困地区にある、
校内暴力で荒れ果てた学校」という設定で
映画のセットに選ばれたくらいだ。
私はその学校で中学1年生の数字
(分数、少数、代数と幾何の基礎)
を担当することになった。
最初の週からすぐに分かったことは
生徒の中には数学的概念の呑み込みが
ずば抜けて早い子が何人かいることだった。
クラスでも抜群によくできる
生徒たちに教えるのは楽しかった。
文字通り頭の回転が速いのだ。
たいしてヒントを与えられなくても
すぐに問題のパターンをつかんでしまう。
私が黒板で例題を解くのを見ただけで
「わかった!」と言って
次の問題をさっさと解いてしまうのだ。
一方、それほど能力のない生徒たちは
なかなかパターンがつかめず苦労する。
ところが最初の学期の成績評価を
行ったところ、
驚いたことに、能力の高い生徒たちの
成績は思っていたほどよくななかった。
もちろん、
良い成績の生徒もいたが、
クラスでもとくに能力が高い
生徒たちに限って、
なぜかパッとせず
仲には成績の悪い生徒もいた。
それとは逆に、
最初はなかなか問題が解けずに
苦労していた生徒たちの中には、
予想以上に良い成績を取った生徒が
何人もいた。
このようによく伸びた生徒たちは、
決まって欠席もせず、
忘れ物もしなかった。
授業中にふざけたり、
よそ見をしたりもせず、
ノートをしっかり取って、
よく質問をした。
最初からすぐに問題を理解出来なくても
あきらめずに何度も挑戦をした。
昼休みや午後の選択科目の時間に
「先生、教えてください」と頼んでくることもあった。
そうやってこつこつと努力をしたことが
成績に表れたのだ。
才能、熱意、努力・・・
何が「成功する者」の秘密か?
その後の数年間の教師生活の中で
私はますます
才能によって運命が決まるとは
思わなくなり
努力のもたらす成果に強い
興味を抱くようになった。
その謎を徹底的に探るため
ついに私は教師を辞めて
心理学者になった。
大学院で研究を始めると、
「成功するものと失敗する者を
分けるのは何か」というテーマについては
昔から多くの心理学者が
研究をしてきたことがわかった。
もっとも初期の研究者に
フランシス・ゴルトンがいる。
ゴルトンはこのテーマについて
いとこのチャールズ・ダーウィンと
論じ合っている。
ゴルトンは正真正銘の神童だった。
4歳ですでに読み書きができ、
6歳でラテン語と長除法(割り算の筆算)
を習得し、シェイクスピアを暗唱した。
何でもすぐに覚えてしまった。
1869年、ゴルトンは遺伝的性質と
才能に関する自身初の研究論文を
まとめた著書、
「遺伝的天才」を上梓した。
科学者、運動選手、音楽家、詩人、
法律家など、
多岐にわたる分野の著名人を選び、
その生涯や人物像に迫る情報を
出来る限り収集した。
ゴルトンは結論として
偉業を成し遂げた人物には
3つの顕著な特徴があると
述べた。
すなわち、稀有な「才能」と
並外れた「熱意」と
「努力を継続する力」を
併せ持っていることだ。
その本の最初の50ページを読んだ
ダーウィンは、ゴルトンに手紙を書き、
不可欠な特徴の中に「才能」が
含まれていることに驚きを示した。
「ある意味、君のおかげで
考えを改めたと言えるだろう。
私は常々、愚か者でもないがぎり
人間の知的能力にたいした差はない。
差があるのは熱意と努力だけだ、
と主張してきたのだから。
だがやはり、もっとも重要なのは
その二つだと私は考えている。」
当然ながらダーウィン本人も
ゴルトンの研究対象である
「偉業を成し遂げた人物」に
ほかならなかった。
史上最も重要な科学者の一人として
その名を轟かせたダーウィンは
「動植物の種の多様性は、
自然選択の結果として生じたものである」
という学説を始めて発表した。
そして、ダーウィンが鋭い観察の目を向けた
対象には、植物や動物だけでなく
人間も含まれていた。
ある意味、彼の天職は、生存につながる
わずかな差異を観察することだった。
したがって、偉業を達成するための
決定要因に関するダーウィンに意見、
すなわち、知的能力よりも
熱意と努力のほうが
はるかに重要だという信念は、
一考に値するだろう。
以上となります。
次回をお楽しみに。
書籍名:GRIT やり抜く力
人生のあらゆる成功を決める「究極の能力」
を身につける
著者:アンジェラ・ダックワース
翻訳:神崎 明子